量子コンピューターの実用化は間近か?アイビーエム[IBM]や大手ハイテク企業が研究開発に着手 | 石原順の米国株トレンド5銘柄 | マネクリ マネックス証券の投資情報とお金に役立つメディア

量子コンピューターとスパコンとの組み合わせで新たな成果、エヌビディア[NVDA]CEOも実用化に言及

日本経済新聞の6月28日付けの記事「理研、量子・スパコン連携で化学計算を実行 量子超越へ前進」によると、理化学研究所がアイビーエム[IBM]の超電導型量子コンピューターと理化学研究所のスーパーコンピューター(以下スパコン)「富岳」を組み合わせ、スパコンだけでは計算が難しかった化合物の性質を明らかにしたと報じた。研究グループの成果は、5月、米科学誌サイエンス・アドバンシズに掲載された。

今後さらに量子とスパコンの組み合わせを動かすのに適したアルゴリズムを開発し、検証などを進めるという。量子コンピューターは高性能な計算が期待される一方、現時点での性能は限定的だった。しかし、スパコンとの連携によって新たな成果が出始めている。実用化はまだまだ先と思われていたが、カウントダウンが始まったようにも思われる。

【図表1】アイビーエムの売上高と最終損益 出所:決算資料より筆者作成 米半導体大手エヌビディア[NVDA]のジェンスン・フアンCEO(最高経営責任者)は6月11日、パリで開催されたテック業界の会議「ビバテック」のイベントに登壇し、量子コンピューティングが転換点に達しつつあると指摘した。量子コンピューティングは数十年にわたる開発を経て、「より強靱で高性能かつレジリエント」なシステムとしての離陸が間近に迫っていると述べた。

ファン氏は2025年1月、米ラスベガスで開催された世界最大のテクノロジー見本市「CES」の基調講演において、量子コンピューターの実用化までにはまだ20年程度かかるとの見方を示した。ファン氏の発言は、実用化について数十年先になるとしていた予想が約半年で変化したことを示している。

6月12日付けのブルームバーグの記事「量子の夜明け、エヌビディアのフアンCEOが『転換点』接近を宣言」によると、「ムーアの法則と同様に、論理量子ビットの数は5年ごとに10倍、10年で100倍になることは十分予想できる」と語ったという。

「エラー修正」の課題を乗り越えられるか?新薬開発などで試験的導入もスタート

量子コンピューターの概念がはじめて提案されたのは1980年代のことだ。量子コンピューターは並列計算が可能であるため、従来の逐次処理型コンピューターよりもはるかに高速で情報を処理し、問題を解決できる。通常、一般的に使われているコンピューターはデータを「1」か「0」のビット単位で半導体に記録するのに対して、量子コンピューターは「量子ビット」と呼ばれる重ね合わせの状態を作り、「1」と「0」を同時に保持するため「00」「01」「10」「11」の4つの値を記録することができる。

ただし、実用化に向けては乗り越えなければならないハードルがある。量子状態は非常に不安定で、計算中に多くのエラーが発生する。エラーが多くなると計算結果が不正確になることに加え、その計算能力の大部分をエラー修正に費やすことになる。このエラー修正の問題をどのように解決するかというのが実用化に向けた最大の課題であった。そこでスパコンによってエラーを抑えようというのが冒頭で取り上げた理化学研究所の取り組みだ。この組み合わせによる研究が進めば、長年にわたりスパコンに取り組んできた日本にとっては大きな果実となる。

用途の面ではすでに試験的な導入が始まっている。例えば、医薬品や化学品、エネルギー系の会社は、すでに新薬の開発のためのドラッグディスカバリーや、よりより分子構造の発見のために量子コンピューターを採用している。他にも、金融市場の効率化、交通問題にも対応できるとされており、さらには、サイバーセキュリティには欠かすことができない暗号技術の確立にも役立つことが期待されている。

2025年は量子力学の誕生から100年にあたるという。国連は「国際量子科学技術年」として公式に宣言している。日本でも石破首相が2025年を「量子産業化元年」と位置付けスタートアップ支援を表明した他、量子研究の国際的な共同研究を推進するため、新たに5ヶ国と連携協定を締結すると表明した。5月にカナダで開催された主要7カ国首脳会議(G7サミット)では、共同声明においても量子技術の促進が採択された。株式市場でも今後、度々話題となるテーマであろう。

アルファベット[GOOGL]、アリババ・グループ[BABA]ら大手ハイテク企業も開発進める

経営コンサルティングファームのボストン・コンサルティング・グループ(BCG)は、「The Long-Term Forcast for Quantum Computing Still Looks Bright(量子コンピューティングの長期的見通しは依然として明るい)」と題するレポートを2024年7月に公表した。量子コンピューティングが2040年までに世界全体で4500億ドルから8500億ドルの経済価値を生み出すとする2021年時点の予測を維持した。

現在、公共部門からの投資が先行している。公共部門は、半導体、インターネット、GPSなどの技術に対して過去に行ってきたように、助成金を通じて量子コンピューターに大きな支援を行っている。BCGの試算によると、量子コンピューターの公共発注はすでに市場の半分以上を支えており、既存の計画の発表状況や量子技術の地政学的重要性から、この需要は、今後3~5年持続すると想定されている。

【図表2】2027年までの世界の量子コンピューター市場の見通し 出所:ボストン・コンサルティング・グループのデータより筆者作成 前述のアイビーエムは5月初旬に、量子誤り(エラー)耐性を持つ実用的な量子コンピューターを2029年までに構築する新たな計画を発表した。現在の量子コンピューターと比較して2万倍の演算能力を持ち、材料探索や創薬、組み合わせ最適化問題といった様々な分野への応用が期待できるという。競合他社に先駆けて量子コンピューターの社会実装を加速する。

量子コンピューティングの開発を進めているのはアイビーエムだけではない。大手ハイテク企業も研究開発に着手している。アルファベット[GOOGL]、アリババ・グループ[BABA]、マイクロソフト[MSFT]、ハネウェル・インターナショナル[HON]等に加え、量子コンピューター用プロセッサーの開発会社であるリジッティ・コンピューティング・インク[RGTI]や量子工学技術のクオンタム・コンピューティング・インク[QUBT]等、新興上場企業も少なくない。

「Quantum Advantage」を享受出来るのは「Quantum Readiness」の企業だけ

ビジネインサイダーの6月13日付けの記事「量子コンピューティング革命が間近に迫っている…準備を始めていないCEOは『手遅れになる』」では、量子技術の波が官民両分野で勢いを増す中、イオンキュー[IONQ]のCEOであるニッコロ・デ・マシ氏が、「業界に最適な活用例をいち早く見つけ出し、ハイブリッドアルゴリズムをいち早く開発、導入する企業が大きな優位性を得るだろう」とコメントしたと紹介している。

準備を進めた企業は、最初の大きな量子コンピューターが動き始めたときに、すぐに使い、活用できるからであり、「始めない企業は時代遅れになるリスクがある」として、「今後多くの業界で、量子革命について理解していないCEOの会社は、大きく遅れをとってしまい、CEOが解任される可能性が高いと考えている」と述べた。

量子コンピューターは現在、アイビーエムの言葉を借りれば「Quantum Readiness(来るべき量子の時代に備えよう)」の時期の最終段階にある。企業にとってこの時期に、いかに知的財産を集積し、人材とノウハウを蓄え、来るべき時代に備え体力をつけておくかがが重要だ。そして、数年後、実用性のある量子コンピューターが開発された時に、備えをしてきた企業や国家だけが「Quantum Advantage(先行企業が量子の恩恵を受ける時代)」を享受することができるだろう。

石原順の注目5銘柄

アイビーエム[IBM] 出所:トレードステーション

アルファベット[GOOGL] 出所:トレードステーション

マイクロソフト[MSFT] 出所:トレードステーション

リジッティ・コンピューティング・インク[RGTI] 出所:トレードステーション

クオンタム・コンピューティング・インク[QUBT] 出所:トレードステーション

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